蜘蛛と箒企画:連続講座シリーズを開始します。


蜘蛛と箒では、前期・後期の二期制で一年を通した連続講座のシリーズを開催します。批評家、研究者、作家が講師となって行われる連続講座で、前期は各講座全4回となっています。
本連続講座のシリーズのコンセプトは「芸術の遠心力」。
ここでの「遠心力」とは、時間や空間という抽象的なものだけでなく、文化、国境、ジャンル、アイデンティティーなどの閉塞感を越える力を意味しています。
遠心力とは、何かから解放される運動であり、同時に何かに接近する運動でもあります。
そして、何かを遠くまで飛ばすためには、自分の体を支えられなければなりません。
さてここでのそれは何を意味するでしょうか。
6つの連続講座は、それぞれ異なるテーマと異なる方法で行われますが、どれも「芸術の遠心力」を学ぶことにつながっています。
社会的なことであれ、私的なことであれ、何かを変えようと思っている人たちにぜひ参加して欲しいアクチュアルな連続講座です。

講座名
「世界=現実の脱構成としての芸術」
講師:沢山 遼

講座の概要
「芸術は世界を変えられるか」という解けない問いがある。しかし、近代以降の芸術が、世界=現実の模造、模倣をやめるという明確な意志をもって制作されたとすれば、現実それ自体としての芸術は、世界の階層秩序を脱構成―無効化する威力に満ちたものになる。絵筆のたった一振りが、取り戻すことのできない出来事を世界に刻み、別の秩序を生成する。そこでは、世界は変えられるか否か、という視点ではなく、その変革はどのように(どのような思想のもとに)生じるのか、を思考する視点こそ重要となる。この講座では、芸術の脱構成=世界の脱構成という見取り図のもとに、多数の芸術実践とそこに付随する思想を検討し、近現代の芸術の可能性を探ってみたい。
【講座日程】
第1回 4月27日(土)、第2回 5月25日(土)、第3回 6月29日(土)、第4回 8月24日(土)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

【講座名】
「教室を出る」
講師:藤井 光

【講座概要】
現代美術の創造と受容がグローバル化し、国民国家の枠組みを脱領土化したとするアイデアは、少なくとも日本で実感することはない。私たちの芸術活動を、限界づける文化的権力について、理解を深める必要がある。そのために本講座では、教室を出る。人間、人間本性、人権、人道に反する罪、それらに関係する真理の問いと歴史に関わる場所を訪れる。私たちの時代の、解決のつかない難問を、講師・受講生らと対話を通して発見していく。
【講座日程】
第1回 4月28日(日)、第2回 6月2日(日)、第3回 7月14日(日)、第4回 8月25日(日)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

講座名
「インターナショナル・アート・スタディーズ」
講師:石川 卓磨
講座の概要
Netflixのドキュメンタリー番組『シェフのテーブル』をご存知だろうか。『シェフのテーブル』は、世界中の料理人を毎回1人ピックアップし、彼らが作り出す料理と、料理人として確立していった過程を紹介していく番組だ。そこでは、純粋な食文化の美しさや活力に魅了されながら、料理人の人生と料理に、文化、歴史、政治、自然、経済、言語などの多様な背景が反映されていることを垣間見ることができる。
『インターナショナル・アート・スタディーズ』を端的に説明すれば、これを芸術・美術の分野に置き換えて授業をしてみることなのだ。美術を中心にした講座だが、美術の専門性を持った人だけに向けた授業ではない。海外(イギリス、アメリカ、ドイツ、エストニア)に移住し活躍している作家たちを毎回ゲスト講師に招き、ビデオチャットなどを用いて授業を行う。日本とは異なる歴史や環境に身を置いて活動している作家たちの経験や思考を通して、いま世界で起こっていることや、各国の特殊な背景を学んでいくことができる。
ただし本講座の目的は、欧米を仰ぎ見ることでも、欧米の多様性を羨望することでもない。日本の外で生きること、日本の外からの眼差しを知ることで、日本の中にある膠着した観念を解きほぐし、日本の中にもすでに存在している多様性や可能性を理解することにつながる。そのため海外で活躍する作家だけでなく、在日という存在にもフォーカスする予定だ。
海外への留学を考えている人や、国外の美術の状況を知りたい人はもちろんだが、美術に詳しくなくても世界各地の多様な文化や状況などを知りたい人にも楽しむことができる内容になるはずだ。
ゲスト講師は、岡田葉さん、小池浩央さん、近藤愛助さん、鄭梨愛さん、長倉友紀子さんを予定。
【講座日程】
第1回 5月5日(日)、第2回 6月16日(日)、第3回 7月7日(日)、第4回 8月4日(日)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

【講座名】
「建築とアーカイブズを巡る論点」
講師:藤本 貴子
【講座概要】
近年、開催される大規模な建築展も多く、建築や建築に関する資料への関心が高まっているように感じられます。建築アーカイブズとはどのようなもので、その意義・使命は何でしょうか。その在り方から見えてくるものは何でしょう。この講義では、私が研修・調査と実務で取り組んできた建築アーカイブズの現状と課題の報告・共有に加え、「建築」と「アーカイブ」をキーワードにしながら、「建築の継承」「建築とインフラ」などにテーマを広げ、ゲスト(建築家等を予定)も交えながら、建築文化を様々な角度から検討・議論します。また、建築分野に限らず、現代においてアーカイブという概念が何故注目され、重要視されるのか、皆さんと一緒に考えたいと思います。私が資料整理に携わった建築家・大高正人の建築見学も考えています。
【講座日程】
第1回 5月11日(土)、第2回 6月15日(土)、第3回 7月27日(土)、第4回 8月31日(土)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

講座名
「近現代日本美術史をジェンダーの視点からみる」
講師:吉良 智子
講座概要
美術史研究者だった故千野香織は美術史学のシンポジウムにおいて次のような言葉を残しています。「今日の私の話は、現在の日本の美術史研究の状況に閉塞感を覚えている人、なんだか苦しくて息がつまりそうだと感じている人へ向けての、一つのメッセージです。」(千野香織「日本の美術史言説におけるジェンダー研究の重要性」『千野香織著作集』ブリュッケ、2010年)。千野は美術史学にジェンダー研究を導入した研究者のひとりであり、どのような立場にも属さない中立的な学問は存在せず、現在ある日本の美術史学は主に男性権威者によって歴史的に構築されたものであり、「唯一正しい」美術史学というものはないことをたびたび論じています。
私は、千野のいう「息苦しくて窒息しそうな人間」のひとりでした。私は主に近代の女性アーティストについて研究していますが、それは「正統な」美術史学からすれば取るに足らないものだからです。しかし「唯一正しい」「正統な」美術史学とは何でしょう。それは誰のどのような価値観によって構築されるのでしょう。その価値観によって排除・忘却されるものは誰・何でしょうか。そのような大きな問いを前提に、近現代の女性アーティストとその作品について考察し、90年代の「ジェンダー論争」まで手を広げてみたいと思います。
【講座日程】
第1回 5月12日(日)、第2回 6月9日(日)、第3回 7月21日(日)、第4回 9月1日(日)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

【講座名】
「制作実習(「わたし」の欲望を語ることについて)」
講師:百瀬 文
【講座概要】
「わたしたち」という主語で何かを語り、他者を代弁するときに得られるある種の快楽。その正体は一体何なのでしょうか。かつて制作をする上で、その違和感に抗うために自分ができたことは、カメラを向けた瞬間から常に始まる、被写体との不均衡な関係における「わたし」自身の体から出発して思考を始めることでした。
皆さんが普段行っている制作における、自らの個人的で主体的な欲望──時に気まずさを伴うような──に自覚的になってみること。「私たち」という主語の網の目からこぼれ落ちたものを、あなた自身の倫理観と身体言語で捉え直してみること。
この授業では、「なにかを生み出す手前の判断」について、丁寧に考えてみる時間を作ろうと思います。もしあなたが作品と呼ばれるもの(どんな形態であれ)を作っている方、もしくは作ろうとしている方で、何らかの迷いや引っかかりを覚えているならば、まずそれを言語化し共有する場を作り、それぞれの個人の制作の話を始めてもらえたらと思っています。授業の中では映像・写真を基本とした作品を発表してもらうことになります。スマホの登場以降ぴったりと手のひらにくっついているカメラがある時代においては、身ひとつでも出来るなにか、ということで考えてもらってもいいのかもしれません(そこにあなたの声も体も言葉も、否応無しに含まれます)。
【講座日程】
第1回 5月18日(土)、第2回 6月8日(土)、第3回 7月6日(土)、第4回 8月3日(土)
※こちらのリンクにて本講座の詳細をご確認ください。

【講師プロフィール】(50音順)

石川卓磨
1979年生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科卒業。美術家、美術批評家。主な評論に「カエサルのものはカエサルに!――鈴木清順における「ルパン三世」と「浪漫三部作」」(『ユリイカ2017年5月号 特集=追悼・鈴木清順』、青土社、2017)、「ポストアプロプリエーションとしての写真」(『カメラのみぞ知る』[図録]、ユミコチバアソシエイツほか、2015年)などがある。主な展覧会に「第9回恵比寿映像祭『マルチプルな未来』」(東京都写真美術館、2017年)、「教えと伝わり|Lessons and Conveyance」(TALION GALLERY、2016年)、AIRS企画vol.5石川卓磨「真空を含む」(国際芸術センター青森・ACAC AVルーム、2016年)などがある。

 

吉良智子
1974年生まれ。2010年千葉大学大学院修了(博士(文学))。日本学術振興会特別研究員-RPD。著書に『戦争と女性画家 もうひとつの「近代」美術』(ブリュッケ、2013年)、『女性画家たちの戦争』(平凡社新書、2015年)。『戦争と女性画家』において女性史青山なを賞受賞。
(撮影:長島可純)

 

沢山 遼
1982年生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科修士過程修了。美術批評家。2009年に「レイバー・ワーク──カール・アンドレにおける制作の概念」で『美術手帖』第14回芸術評論募集第一席。武蔵野美術大学、首都大学、名古屋芸術大学等非常勤講師。主な論考に「ニューマンのパラドクス」田中正之編『ニューヨーク 錯乱する都市の夢と現実(西洋近代の都市と芸術7)』竹林舎、2017年。「ウォーホルと時間」『NACT Review 国立新美術館研究紀要』第4号、2018年。「都市の否定的なものたち ニューヨーク、東京、1972年」『ゴードン・マッタ=クラーク展』カタログ、東京国立近代美術館、2018年など。

 

藤井 光
1976年生まれ。パリ第8大学美学・芸術第三博士課程DEA修了。美術家・映像作家。芸術は社会と歴史と密接に関わりを持って生成されるという考え方のもと、様々な国や地域固有の文化や歴史を、綿密なリサーチやフィールドワークを通じて検証し、同時代の社会課題に応答する作品を、主に映像インスタレーションとして制作。各分野の専門家との領域横断的かつ芸術的協働をもたらす交点としてのワークショップを企画し、そこで参加者とともに歴史的事象を再演する「リエナクトメント」の手法を用いて、過去と現代を創造的につなぎ、歴史や社会の不可視な領域を構造的に批評する試みを行う。

 

藤本 貴子
1981年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒業。磯崎新アトリエ勤務後、文化庁新進芸術家海外研修員として米国・欧州の建築アーカイブズで研修・調査を行う。2014年より文化庁国立近現代建築資料館勤務。論考:「制度としての美術館と破壊者としてのアーカイヴの可能性」(10+1 website、2015年)(http://10plus1.jp/monthly/2015/06/issue-06.php)、「堕落に抗する力」(同、2019年)(http://10plus1.jp/monthly/2019/01/issue-09.php


百瀬 文
1988年生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科修士過程修了。アーティスト。パフォーマンスを記録するための方法として映像を用いはじめ、身体と声、映像と声の関係性を問うような作品を発表している。近年の主な個展に「Borrowing the Other Eye」(ESPACE DIAPHANES、2018年)、「サンプルボイス」(横浜美術館アートギャラリー1、2014年)、主なグループ展に「六本木クロッシング2016展: 僕の身体、あなたの声」(森美術館、2016年)、「アーティスト・ファイル2015 隣の部屋――日本と韓国の作家たち」(国立新美術館、韓国国立現代美術館、2015-16年)、「戦争画STUDIES」(東京都美術館ギャラリーB、2015年)などがある。


講座に関する質問などは下記までお問い合わせください。

Email:aslspbank@gmail.com

 

 

蜘蛛と箒

蜘蛛と箒(くもとほうき)は、 芸術・文化の批評、教育、製作などを行う研究組織です。

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