蜘蛛と箒企画・連続講座「近現代日本美術史をジェンダーの視点からみる」 講師:吉良 智子

講座名
「近現代日本美術史をジェンダーの視点からみる」
講師:吉良 智子

講座概要
美術史研究者だった故千野香織は美術史学のシンポジウムにおいて次のような言葉を残しています。「今日の私の話は、現在の日本の美術史研究の状況に閉塞感を覚えている人、なんだか苦しくて息がつまりそうだと感じている人へ向けての、一つのメッセージです。」(千野香織「日本の美術史言説におけるジェンダー研究の重要性」『千野香織著作集』ブリュッケ、2010年)。千野は美術史学にジェンダー研究を導入した研究者のひとりであり、どのような立場にも属さない中立的な学問は存在せず、現在ある日本の美術史学は主に男性権威者によって歴史的に構築されたものであり、「唯一正しい」美術史学というものはないことをたびたび論じています。
私は、千野のいう「息苦しくて窒息しそうな人間」のひとりでした。私は主に近代の女性アーティストについて研究していますが、それは「正統な」美術史学からすれば取るに足らないものだからです。しかし「唯一正しい」「正統な」美術史学とは何でしょう。それは誰のどのような価値観によって構築されるのでしょう。その価値観によって排除・忘却されるものは誰・何でしょうか。そのような大きな問いを前提に、近現代の女性アーティストとその作品について考察し、90年代の「ジェンダー論争」まで手を広げてみたいと思います。

 

【講座詳細】
いわゆる美術の通史的概説書というものは多く刊行されていますが、それらのテキストの多くは上村松園など誰もが知る人気の高い女性アーティストをごく数名付け加えるものです。しかも大抵の場合その作品は「女性らしさ」や「母親らしさ」に結び付けて享受されています。この状況はこれまで「当たり前」のように受け止められてきました。残念ながら今でもその傾向は否めないでしょう。
隔たったジェンダーバランスに対するカウンターの第一段階として、日本では1980年代頃から忘れ去られた女性アーティストの発掘作業が進められました。この作業はもちろん今でも有効ですが、第二段階としてそもそもなぜ排除や忘却がなされたのだろうかという社会システムそのものに対する問いかけが現在進行形で進められています。こうした一連の研究にはいわゆる決まりきった通史的テキストというものがほぼ存在しません。ジェンダーの視点に関心のある研究者やアーティストが、それぞれ自分自身の経験に引き寄せながら実践として取り組んでいます。
そのような歴史を踏まえたうえで、現代社会におけるアートとジェンダーをめぐる議論にまでつなげていきたいと思います。つまり、一部の女性アーティストをピックアップしてこれまでの歴史に入れ込むのではなく、作品を見ることを通じて彼女たちを排除してきたシステムそのものを問い直します。
毎回テーマはありますが、重要な先行研究を紹介しながら参加者の関心や対話の中で生まれた課題に寄り添って柔軟にやりたいと思います。迂遠なようですが、現代は過去と地続きです。過去の女性アーティストや彼女たちを排除・忘却した社会システムについて考えることは、きわめて有効であると思います。

第1回目
すでに古典的な論文ではありますが、リンダ・ノックリン「なぜ女性の大芸術家は現れないのか」(『美術手帖』407、1976年5月〔Nochlin, 1971〕)を読みます。現代においては批判的評価もある論文ですが、美術におけるジェンダー的な問いはこの論文から始まり、今もなお有効な視点を含んでいます。本論文を読むことで問題意識の共有化を図ります。

第2回目
近代日本の美術教育と制度について、黎明期に対照的な生き方をした二人の女性アーティストとその作品を例に考えます。

第3回目
近代日本の女性アーティストの作品に対する評価について、美術雑誌に掲載された展覧会評を材料に、その変遷と課題について検討します。

第4回目
アジア・太平洋戦争期の日本における女性アーティストたちの活動と作品について検討します。戦争への主体的関与をもたらした社会構造と彼女たちの役割を、作品を通じて考えます。


【講師プロフィール】

吉良智子
1974年生まれ。2010年千葉大学大学院修了(博士(文学))。日本学術振興会特別研究員-RPD。著書に『戦争と女性画家 もうひとつの「近代」美術』(ブリュッケ、2013年)、『女性画家たちの戦争』(平凡社新書、2015年)。『戦争と女性画家』において女性史青山なを賞受賞。
(撮影:長島可純)

※本講座は4回連続で参加できる人を対象にしています。

開催日 第1回 5月12日(日)、第2回 6月9日(日)、第3回 7月21日(日)、第4回 9月1日(日)
開催時間 19:00-21:00(延長の場合は21:30)
受講費 4回講座(1講座120分×4回)8,000円
開催場所 武蔵野プレイス
(武蔵野市境南町2-3-18 tel 0422-30-1905
アクセス:JR中央線・西武多摩川線「武蔵境駅」南口下車、徒歩1分)
入会費 年間1,000円。受講のためには入会が必要となります。有効期間は一年になります。
他の蜘蛛と箒のイベントで割引制度を設ける場合があります。
定員 15名程度
申し込みフォーム  https://form.os7.biz/f/a0116933/
※自動返信メールではありませんので、返信が遅れる場合がございます。

講座に関する質問などは下記までお問い合わせください。
Email:aslspbank@gmail.com

 

蜘蛛と箒

蜘蛛と箒(くもとほうき)は、 芸術・文化の批評、教育、製作などを行う研究組織です。

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