蜘蛛と箒のレビュー・プロジェクト:平岡希望評

 

文:平岡希望

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2023年5月16日

 
Aokidさん「CALENDAR」(Art Center Ongoing)は、二度三度と訪れる内にも、一階壁面のカレンダーは徐々に埋められ、周囲にもアーカイブが貼り込まれ…と、会期中の出来事が降り積もり育っていく空間だった。二階には、鮫の背びれを模した《SHARK(立体)》があり、キャスターで滑る様は、ありもしない体躯を連想させる。そして、それを少し転がしては隣に渡すという遊びが、即興ギャラリーツアーで一瞬生まれたことは、Aokidさん主催の「どうぶつえん」や、会期中のイベント、例えば「それぞれのストリート〜音楽、アート、ダンスの現場から~(ゲスト:トモトシさん、zzzpeakerさん)」で、観客数人が自然に踊り出したこととも通ずる。「それぞれの~」で、お三方の発表を見聞きしながら、異邦人として街をひととき巡ることは、テニスボール大の地球と鏡が向かい合う《Glowing up》で、地球の表裏を一望したこととも重なり、ブルーシートの欠片1000枚で出来た《MANY MANY OCEAN 》が、横から見ると面白いことをAokidさん自ら教えてくれたように、街を想定外の場所から見る試みだった。そして戻るや否やトークが始まり、恰も一日の終わりに日記を認めるような内省は、PlayとStudyの間を反復横跳びするみたいで(《Play /Study》)、そうした瞬発力が作品やダンスを支えているのだろう。屋上ではパフォーマンス《ART CENTER!》が不定期で行われ、向かいの通りから仰ぎ見ると、水着姿のAokidさんが時報の如く踊っているものの足元は見えなくて、鉢植えに半身を埋めた《EARTH&EARTH MAN》みたいでもある。そして、公道の観客も暫しパフォーマーに仕立て上げられていたのかもしれない。Aokidさんが退場すると、そこには透明シートを支持体とした《Sun! Flower!》が残され、《SHARK(立体)》がありもしない鮫の全身をそれでも想像させるように、屋上から二階、一階…と根を下ろしているようで、この個展自体が、街に花を咲かせるため、土を耕し続けるような営みだったのかも知れない。

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2023年5月8日

 

堀江和真さん『“にゅい”な部屋』(オルタナティブ掘っ立て小屋『ナミイタ-Nami Ita』,~5月15日 ※火水木休み)。

画面にレモンイエローが載せられた《やせる絵画》、それが収められた額縁(にゅい家具)の裏板もレモンイエローで、真下の棚に並ぶ、造形教室の端材を用いた《ペインティングビルド》の内ひとつも黄色く塗られ、さらに左手には黄色い額があって…と、数珠繋ぎの如く原色が連なる空間。そして色だけでなく時間も張り巡らされていて、《やせる絵画》それぞれに書き付けられた日時、例えば「2023 3/29 13:20~13:28」と「2023 3.29 13:28-13:34」が連続しているように、作品同士の前後関係が、制作年に留まらず、分単位でうかがい知れる。そして、鉄の支持体をプラ板で埋め尽くした《イメージを置く》が、ちょうど1年前のグループ展「いとまの方法」で、会場の鉄扉が同じように(一部を)覆われていたことを思い出させ、《にゅい家具》の並んだこの空間自体が、堀江さんのスタジオを想像させ…と、作品をよすがに異なる時間・空間が繋ぎ合わされている。そんな展示空間は、かわるがわる訪れるお客をもてなす部屋でもあり、訪問者=モデルを撮影するセットでもある。そして観客と対話する堀江さんは時にセラピストのようで、遊戯室・カウンセリングルームでもあるのかも知れない。

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2023年5月1日

 

高橋大輔さんオープンスタジオ(会期終了)。

未発表の最新作から、干支ひと回り分は離れた過去作までが、時系列ではなく一挙に飛び込んでくる空間。

はじめて個展を拝見したのは「青いシリーズ / どうして私が歩くと景色は変わってゆくのか」(second 2.,2021年)で、もったりとしたクリームを、筆で掬っていくかのようにのせられた青の表情に惹かれた。同連作の一作が今回もあり、改めて見ると、新雪に足跡をつけていく時、雪からも押し返されては崩れていくみたいに、ひとつひとつの運動の連鎖として生まれたことが感じ取れる。絵の具と絵の具、あるいは支持体とのシーソーめいたやりとりは、新作群でも追究され、一筆置くごとに変容していく画面のダイナミズムをそのまま留めている。一本の線がどのように引かれたのか、それが、全体とどう関係するのか、目をレコードプレーヤーの針のごとく落としてなぞっていくことは、絵を見る楽しみだと思うけれど、そうした醍醐味が凝縮されているよう。



蜘蛛と箒

蜘蛛と箒(くもとほうき)は、 芸術・文化の批評、教育、製作などを行う研究組織です。

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