活動記録2017:蜘蛛と箒企画特別講座:石岡良治「ゴンブリッチ再訪:カリカチュア論からその現代的意義を考察する」

蜘蛛と箒企画特別講座:
石岡良治「ゴンブリッチ再訪:カリカチュア論からその現代的意義を考察する」

エルンスト・ゴンブリッチ(1909-2001)のイメージ理論を、カリカチュア研究における精神分析美学との関連に注目しつつ、その現代的意義について考察するレクチャー。
開催日時:2017年9月17日(日)19:00-21:00
開場時間:18:30–
開催場所:武蔵野プレイス・スペースC
(武蔵野市境南町2-3-18 武蔵境駅から徒歩1分程度)
料金:1,500円
定員:35名※事前予約制 お名前、人数、ご連絡先のメールアドレスまたはお電話番号をご明記の上、aslspbank@gmail.comまでご連絡ください。
定員に達したため募集は締め切らせていただきます。
オノレ・ドーミエ 《洋梨》(1831)

ジョン・コンスタブル《ウィヴンホー・パーク、エセックス》(1816)

 ゴンブリッチは、20世紀のベストセラー美術書『美術の物語』(初版1950)の著者として知られるのみならず、主著『芸術と幻影』(1960)など、認知科学の進展をふまえた理論的著作でも有名な美術史家である。オーストリア系ユダヤ人として生まれ、ウィーン大学で美術史を学ぶも、ナチス台頭から「アンシュルス」(1938年のドイツによるオーストリア併合)に至るユダヤ人迫害に伴い1936年にイギリスに亡命。ウォーバーグ研究所(アビ・ヴァールブルクの蔵書を基礎に1921年ハンブルクで設立されたが、ユダヤ人迫害から避難すべく1933年ロンドンに移転)に職を得て後年所長もつとめた。

 ゴンブリッチのイメージ理論は、J・J・ギブソンやR・グレゴリー、U・ナイサーなどの視知覚をめぐる認知科学との交流によって形成され、今なお認知科学ないしは脳科学から美術作品を考察する際には不可欠の参照源となっている。またゴンブリッチは自身の理論を明示的にカール・ポパーの反証主義と関連付けており、ポパー同様「ヘーゲルやマルクスなどの歴史主義批判」「反証可能性を有さない精神分析への疑義」「方法論的個人主義に基づく社会的な審級への不信」をたびたび示していた。

 ゴンブリッチ理論のこうした側面は、ときに「還元主義」として賛否両面から受容された。主な批判としては、20世紀終盤に英語圏における批評理論との関連で興隆した「ニューアートヒストリー」の観点から、事物の自然主義的再現を特権視しているとみなされたことが挙げられる(ノーマン・ブライソンによる批判)。またアビ・ヴァールブルクの評伝において、「イメージの両義性」をめぐる理論的錯綜を単純化することでヴァールブルクの射程を取り逃すなど、クリアカットな議論の明晰性が、一定の犠牲の上に成り立っているのではないかという疑念が示されるのは、そうした状況の現れと言えるだろう。

 けれども同時に指摘されなければならないのは、精神分析を疑似科学と断じたポパーとは異なり、ゴンブリッチはその著作活動を通じて、エルンスト・クリス(1900-57)の精神分析美学を参照し続けていた事実である。ウィーン大学で美術史を学び、かつフロイトの精神分析運動にも参与していたエルンスト・クリスは、アメリカに亡命後は自我心理学を展開したが、ウィーン大学における研究が危機に瀕していた時期、カリカチュアについてゴンブリッチとの共著を執筆していた。共著は最終的に草稿にとどまったが、ここから二人はそれぞれ複数の論文を書き、『芸術の精神分析的研究』(クリス)や『棒馬考』(ゴンブリッチ)に収められている。

 カリカチュアをめぐる考察は、上述したゴンブリッチ理論についての大まかな描像を捉え直す上で重要であるのみならず、「精神分析から脳科学へ」と言い表されることもある研究動向の変遷を、別の仕方で捉え直すことを可能にする。カリカチュア論は、ゴンブリッチの多面的な活動をつなぎとめる「蝶番」の役割を果たしており、芸術とポピュラーカルチャーの関係、そして芸術が歴史をもつ理由と観者の役割など、理論と歴史の双方において決定的な重要性をもっている。また、カリカチュアに即して提起された、イメージの脱魔術化や素描的「表現」をめぐる洞察は、近年のイメージ人類学や神経系人文学をめぐる動向との関係において、ゴンブリッチの現代的意義を考察する上でもきわめて重要であるように思われる。

参考資料:
1)「The Gombrich Archive」( https://gombrich.co.uk 2)クリストファー・ウッドの『芸術と幻影』評(https://webspace.yale.edu/wood/documents/gombrichburlington.pdf … 3)筑摩書房 PR誌ちくま、石岡良治のコラム「イメージ論を経巡る」(全三回)
「イメージ論を経巡る・1 フータモと機械のトポス」(http://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/entry/1136/「イメージ論を経巡る・2 ルイス・ウェインのネコと対象の残存」(http://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/entry/1157/「イメージ論を経巡る・3 イメージ論の「折衝」と平滑空間」(http://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/entry/1180/
プロフィール:

石岡良治(いしおかよしはる)1972年生まれ、批評家、表象文化論。著書に『視覚文化「超」講義』(2014)『「超」批評 視覚文化×マンガ』(2015)。

蜘蛛と箒

蜘蛛と箒(くもとほうき)は、 芸術・文化の批評、教育、製作などを行う研究組織です。

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