蜘蛛と箒のレビュー・プロジェクト:外川麻未評
文:外川麻未
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2023年5月25日
アナイス・カレニン個展「Things named [things]」は「あちら」と「こちら」の世界を想起するような展示だった。「祖先にあたるブラジル北東部に伝わる植物療法や宇宙観からインスピレーションを受ける。そこから作品の指針となる主な疑問や主題が生まれる。」*というように彼女は植物を介した作品制作をする。展示作品**のうちの一つ《Unnamed Transiences》は植物から抽出された色素と別の植物が組み合わされた美しい大きな試験管のような複数の円筒で構成されていた。光の柱のように見える円筒群は神秘的な森であり、このインスタレーションは彼女の「翻訳」作業の軌跡のようだった。
* アーティストのホームページhttps://anaiskarenin.com/aboutより抜粋、翻訳した。
** 三つの独立したスペースが会場であり、それぞれ独立したインスタレーションが展示されていた。
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2023年5月12日
「普通に描く」とは。小橋陽介の展示「グッド フォーメーション -NEW NORMAL PAINTINGS-」ではその質問が作者自身の問答だけではなく見ている者へも投げかけてくるようだった。キャンバスなどの画面へ配置されるイメージは、一つの画面を超え、画面同士の配置の関わり、連動があるようだ。空間に配置されたイメージに没入していくような心持ちで、その連動を追いかけたくなった。「普通に描く」ことの一つの要素として、モチーフの選び方があるようだ。それは、日常の中で些細なものや当たり前のようなものが多く選ばれているように思えた。そこに傲慢さがなく、ペインティングとして心地よく描かれていた。
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2023年5月9日
上田良の「METAL GLUE / スロウ・ドローイング苑」ではドローイング、写真作品に加え、ドローイング制作過程を撮影した映像が展示されていた。色彩豊かな作品の中にある一瞬を捉えた画を見ることができた。
彼女自身の描いたドローイングを繰り返し重ねる行為とコラージュをミックスさせたドローイング作品の制作方法は、そのレイヤーの中に色や形、空間、時間が豊かに関係し合っていた。
彼女自身の描いたドローイングを繰り返し重ねる行為とコラージュをミックスさせたドローイング作品の制作方法は、そのレイヤーの中に色や形、空間、時間が豊かに関係し合っていた。
今見えている世界が「この瞬間」であるように、彼女の作品から「この瞬間」を捉えた緊張感によって過去や未来への可能性への想像が膨らんだ。
https://www.newspacepa.com/ueda
http://www.yayaueda.com/
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2023年5月1日
フィリッパ・トジャルは自身の滞在する場所やかつて居た場所から作品の素材を集め、制作する。彼女のドローイングはその布石のようなもので、「留められた」ドキュメントという言い方が近い。作品それ自体は自制的であり、他者と経験を共有できるような作品・展示空間「はこ庭」が展開されていた。色彩の表面を構成する素材の粒やキャンバスで使用している布が、まるで森歩きの風景体験のようだった。 それは「留められた」小さな石の粒の色の美しさや形の不思議さ、偶然性の発見に心が揺さぶられた。
https://nidigallery.com/news/20230407
https://filipatojal.com/
https://nidigallery.com/news/20230407
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